くるおしいほどうつくしい
実家に帰ってぼんやり過ごしていたら、ひっそりと秋がとおりすぎようとしている。
秋の陽はあっというまにとおくとおくに沈みこむので、
わたしはゆうぐれ時の肌寒さがいやで、さびしくてみじめな気持ちになる。
このまま、誰も帰ってこないのじゃないかという子供のころの不安が足もとからすうっとのぼってきて、
そんな気持ちになるのはあったかい毛糸の靴下を履いていないせいだと気がつく。
台所のテーブルの上で小さくなって、もそもそと靴下をはき、あったかい紅茶を飲む。
ふと、廊下の向こうの南の部屋の窓から、夕闇の中で真っ赤に燃えるピラカンサス*1の木が見える。
あの木にはとげがあって、そのせいでわたしの犬は足を腫らしたのだった。
あの子はもう遠くに行ってしまったけど、
上手にお別れを言えなかったわたしは今でもそこにいるんじゃないかと思ってのぞきこむ。
くるおしいほどうつくしい秋のゆうぐれ時に、わたしはさびしくて、ひとりぼっちで、
だけど、ほんとうに自分がいる場所はこういうところなのだと、ずっとまえから知っていたような気がする。