「さ」…さっき、外に出たら。

さっき、外にでたら空気がぬるかったので、
ぬるい透明の妖怪の身体の中に入り込んでしまったような心地がした。
妖怪の透明な体の中にずぶずぶ入り込んで、氷をがりがりがりがりかじりながら歩いている三十路女。それがわたしなんでしょうね。


地球は空気で満たされていて、真空とはまるで違うということはそうなのですが、
つまり、両者の決定的な違いは、わたしが散歩するこの世界はモノで満たされた、モノだらけだとということです。
それをしみじみと実感するのが、空気の方がわたしの身体を浸食する瞬間です。
夏の夕暮れ時なんて、特にこれが起こりやすい。
飴色の世界の中、皮膚と空気の境界が曖昧になってきて自分の輪郭がとれなくなってくる。
空気という空気が自分の中に入ってきて、わたしもわたしで空気の中にずぶずぶはまり込んでぼんやりしている。
この瞬間は非常に気持ちがいいので、わたしは、この幸せな気持ちとセクシュアリティの違いがよくわかりません。


このように夏の夕暮れ時とセクシュアリティの違いさえも分からない、
男女交際は交換日記とドラえもんの握手で十分という、抑圧的な『花とゆめ』症候群のわたしの最近の疑問は、
なぜ、風俗が大好きという男性がいるのかという原始的かつ初歩的な問題です。
そういう人は人体の境界が曖昧になるという意味では、低反発マットも胃カメラも好きなんではないですか。
それとも、『花とゆめ』症候群の裏返しで、単に、文化に身体を譲り渡すお人よしなんだろうか。謎は深まるばかり。


あまり人のことを理解しようとしてこなかったので、なんだか罰が当たったような気持ち。今度、人にきいてみようと思う。


注)アクセルを踏む文章の練習中。