50音で連想しよう「し」――小説家


体力はなくいつも青息吐息のわたしは、歳をとるごとに冷えを感じない夏が好きになっている。
こうした体調の良好さが気分の高揚を生み出し饒舌となって現れるわけで、
8月初旬に実家に戻り短い滞在だった割には、しっかりおちょけて来た(いかん。出身地がばれてまうでかんわ)。


饒舌ついでに両親とどうでもいい小説家談義をした。
オーサカに住むようになって、これまで読まず嫌いだった三島由紀夫大先生の御高著を拝読して面白かったという話。
ちなみに、我が家では無頼派文学を愛していたので、これまで三島先生はイジりの対象だったわけです。


「あの割腹自殺のクソナルシスト野郎の『愛の渇き』を読んだら、馬鹿にするはずが面白くてはまっちゃった」と言ったところ…


父は「三島由紀夫はものすごく描写がちまちまちまちましていて良さが分かんないんだよねー」と答えてくれたのだけど、


なぜかわたしの饒舌に対抗意識を燃やした母が、
「クソナルシスト野郎も嫌いだが、無頼派文学の中でもあの行きずり心中のエロスケコマシの野郎だけは大人気だけど私は好かんね」と言った。


おかあちゃま。…あたし、びっくり。
その後、母が本棚で埃のかぶっていた文学全集で三島由紀夫を読んでいたのを見て、
いつも会話の成立しないあの母が、意外にもわたしの話に耳を傾けてくれていたのだと泣きそうになった。