王と鳥

soranosakana2006-09-23



(Le Roi et l'oiseau:1980フランス)


「正味な話 シブヤはそれなりに腐っている
 何の為に光々と主張してるんだっけ 合流地は・・・」
矢野真紀 「午後の銀座線」)


シブヤの人ごみは目が回るけど、劇場型の映画館が多いのは好きだ。
映画館のロビーに入った途端、落ち着いた空気がしっとりと肌に密着する。
気がつくと、今までの喧騒を忘れてしまう。
トーキョーのど真ん中で、あの、シブヤで、
好きなところを見つけられるなんて、思いもしなかった。


道玄坂シネマ・アンジェリカに観に行った『王と鳥』は、
ジブリ・アニメーションの原点」ってキャッチ・コピーで、
そこは別にどうでもよかったのだけど、前から、観に行きたかったやつだった
(こうやって、他人と差別化を図ろうとするところがしどけない)。
石井克人の『Grasshopper!』も、連句アニメーション『冬の日』も
ご機嫌で観たわたしは、この作品も好きになれる気がしたから。
きっと、わたしはアニメーションという技術が好きなのだろうと思う。


このお話は、主人公のひとりである鳥の回想で進むことになる。
舞台は、架空の未来都市、タキカルディ王国。
この国の王様(シャルル5+3+8=16世)は、自分勝手で嫌われ者で、孤独な人だ。
このアニメーションの前身のタイトル『やぶにらみ暴君』からも分かるように、
王様は斜視で、どこを見ているかちょっと分からない感じで描かれている。
でも、ちょっと、かわいそうでさ。
王様のビジュアルはかわいそうな位、敵役の要素で満ち溢れている。
大きな鼻に小鼻が意地悪そうにとがって付いていて、
顔の下半分は青髭を強調するために青くべったり塗られている。
今、ちょっと調べてみたら、
演劇で、青髭を塗るのは敵役のお決まりの化粧法なんだそうだ。
そんな王様を、妻を殺された恨みから鳥はとても嫌っていることになっている。


王様は、自分の秘密の部屋にかけられている絵の中の羊飼いの娘に恋をしていて、
だけど、娘は斜向かいにかけられている煙突掃除夫の男の子と恋に落ちている。
何とかして娘を手に入れたい王様は、
画家に自分の肖像画を描かせるのだけど、到底、うまくいきそうにもない。
映画が展開するにつれ、いつのまにか、絵の世界と現実の世界が交差しはじめる。
絵の中の王様はいやがる娘に結婚を迫り、
娘と掃除夫の男の子は絵から抜け出して現実の世界に逃げていく。
怒った絵の中の王様も、絵から飛び出して、
現実の王様をダスト・シュートに追いやって、現実の世界でも王様になってしまう。
だけど、絵の中の王様と現実の王様が入れ替わっても、従者も警察も誰も気がつかない。
絵の中の王様は、あらゆる手段(警察、法律、兵器、メディア)で娘と男の子を追い詰めていく。
ああ、現代社会への風刺が効いててなんて恐ろしい映画なのでしょう。
だけど、面白い。
個人的には、現実の王様をなんだかかわいそうだと思った。
皮肉なのが、王様が入れ変わったって、だぁれも気がつかないところだ。
この映画は誰も幸せじゃない。ほんと、権力ってどこにあるんでしょうね。


ジブリ・アニメーションのなかでも、特に『コナン』『ナウシカ』『ラピュタ』は
テーマもモチーフも良く似ていて、影響を受けているのがよく分かった。
それから、ジブリだけじゃなくて、
いろんな映画作品がこのアニメーションに影響を受けているのが分かったのも良かった。
近い記憶で言えば『チャーリーとチョコレート工場』に出てくる、
工場内の造りなんかも王様のお城に良く似ている。
特に、エレベーターのシーンなんて、そっくりそのままだ。
「創作は模倣からはじまる」と思っているわたしは、こういうのを見つけると嬉しくなる。


お話ももちろん魅力的だったけれど、一番良かったのは、劇中に出てくるモノのかわいさだった。
ライオンがぽちょーんと涙を流すのも良かったし、
まぬけ顔の兵器ロボットがロダンの考える人の姿で置き去りなのも良かったし、
警察がみんなひげのおっさんなのもかわいかったし、
なにより、探索用に警察官達が乗っていた飛行船がさかな型だったのには興奮した。
アニメーションの可愛さとしては大満足。ここだけでも観る価値はあると思う。


ふと、思うことなのだけど、ブログを書いている自分は随分と饒舌だと思う。
映画を見終わった後、いっしょに映画を観てくれた本上まなみさん(笑)に、
わたしはなんて言ったらいいか分からなくて「面白かったねぇ」としか言えなかった。
わたしは、いつも、言葉が見つからなくてぼんやりしている。
たぶん、そんなときは、すごい間抜けな顔をしているんだろうと思う。
まあ、でも、わたしの大事な人たちはそんなわたしを
優しく「ぽいっ」と気にしないでほっといてくれるのだけど。


実は、この映画を観に行って一番思ったのは、内容のことよりも、自分のことだった。
わたしはトーキョーに来て3年目に突入するのだけど、
その間に、好きなものをたくさん増やしてしまったなぁということを痛感していた。
上京当時は目が回るくらいの人ごみにうんざりしていたシブヤも、
いろんな記憶が増えてしまったし、いろんな好きなところを見つけてしまった。
困ったなぁ。。。と途方に暮れてしまう。
だけど、それが嫌じゃないから、いつか、この景色を思い出して目を細めてしまうんだろう。