キウイ・フルーツ44個

夜更けのスーパーマーケットは別世界のようだ。
細かいロッドでばっちりパンチにしたおじさんとか、
へんな犬と金の鎖の模様のついたパジャマを着たおばさんとか、
綺麗なスーツを着て、だけど、神経質にツメを気にしているオフィス・レディとか、
ひたすらレトルトカレーをかごにつめるスーツ姿のお父さんとか、
目をぎょろぎょろさせて家に帰ることを知らない男の子たちとか、
ネコの毛のいっぱいついたスカートをはいたキズだらけの女の子とか、
ほんとにやばい人がいっぱいで、
なのに、こうこうと光る店内でみんな知らん顔で歩いている。
いつか誰かが叫びだして、射されたり、かどわかされたりするんじゃないかと
わたしは怖くなる。
だけど、わくわくしている自分も居て、少し戸惑ってしまう。
「私は、キッチンで死にたい。」と吉本ばななは書いたけど、
わたしは夜更けのスーパーマーケットもいいように思う。
欲を言うなら、ドリーミィでおばかさんな缶詰売場がいい。
スーパーマーケットのホールトマトの缶詰の前でなら、たとえ、殺されてもかまわない。


って、はりきって、なりきってみた。
「何に?」って、初期の村上龍にかな?それとも、田舎に住んでる椎名林檎かな?
ああ。大槻ケンヂが妥当だな。


今日、夜更けにスーペーマーケットに行ったら、
青果売場にキウイ・フルーツがお行儀よく並んでいたので、
そのいじらしい姿に愛しくなって2,3購入することにした。
その足でレジに行き帰ろうとしたら、店員の女の子がミスをしてしまって、
わたしはキウイ・フルーツを44個買ったことになっていた。
まだ研修中だったレジの女の子は泣きそうな顔でわたしに謝って、
だけど、訂正の仕方が分からないみたいで、
44個と登録されたのをひとつずつ消していた。
44回もその作業をしてたら大変だろうなぁ…とか、
かごいっぱいに入った44個のキウイ・フルーツってどんな感じかな…とか、
そんなことを考えていたら、なんだか、なんだかうれしくなってしまって、
わたしはレジの前でけらけら笑っていた。


たぶん、人から見たらわたしがいちばんやばい人だったことでしょう。