ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男

soranosakana2006-08-20

[STONED;2005イギリス]


久しぶりに映画の話ができるのでうれしい。


昼下がり、くもちゃんからメールが入った。
「渋谷パルコの映画のタダ券があるの。いっしょに映画観よう」
わたしは「わーい。いくー」とふたつ返事で喜んで、渋谷によちよち出かけていった。
待ち合わせ場所で落ち合って、やっとわたしはくもちゃんに、
「今日は何の映画を観るのですか?」と訊いた。
そうしたら、ちょっと申し訳なさそうに笑って、くもちゃんが言った。
「さかなちゃん、あんまり、好きな映画じゃないかもしれないけど」


それが、これ、今公開中の『ブライアン・ジョーンズ』だった。


わたしはドラッグ映画が大の苦手。
高校生の頃『バスケットボール・ダイアリーズ』で40度の熱を出し、
あの名作『トレイン・スポッティング』でさえ頭がくらくらしたぐらいだ。
(もちろん、トレスポは大好きな映画だけれど)
単純に言えば、わたしは共感性が強くて怖がりなのだと思う。
だって、わたしがドラッグやったら、ぜったい、ずぶずぶにはまっちゃうもの。
だから、ブライアン・ジョーンズって聞いただけで、
わたしは、もう、ジャンキーみたいな気分になってしまって、
頭の中では、隔離施設に送還されるところまでシミュレートしていた。
そんなわたしは、道中、会話もぼけぼけ。


くもちゃん「ブライアン・ジョーンズって分かる?」
さかな「分かるよ。ストーンズをクビになった人でしょ。
で、3週間後におふろばで死んじゃった人でしょ?」
くもちゃん「プールだよ。」


さかな、ぼけぼけ。


さかな「ね、くもちゃん。なんか…ブライアン、女の人と付き合ってたよね。誰だっけ…?」
くもちゃん「そりゃ、ガールフレンド居るよ。」
さかな「うー。なんだっけ?なんだっけ?」
くもちゃん「アニータさん。」
さかな「!!」


くもちゃん。間違ってないけど、「さん」付けすると違う人になります。


そんなびびって、ぼけぼけのわたしだったのだけど、
わたしもちょっとは大人になったのでしょうね。
とても、おもしろかった。そして、なによりも、ブライアンは愛おしかった。


映画は、ブライアンがストーンズを解雇される直前からはじまって、
過去を回想しながら、彼の死まで展開されていくという形だった。
彼の世話役兼リフォーム業者として、
マネージャーから雇われたフランクの片目から見えるブライアンは、
時に、狂気であり邪悪であり憎悪と羨望の対象だ。
けれど、それ以上に、ブライアンの背後には自身が抱える膨大なエネルギーがある。
そして、それをどうしたらいいのか分からない繊細さと儚さがある。
そんなブライアンは、少女のようにいたいけで、可憐だ。


わたしはブライアンの死の疑惑と真相も、
彼の死が一体何を意味するのかも知らなかったから、
60年代がいったいどういう時代だったのか、そして、この時代を生きて、
そして、生き永らえられなかった人たちが背負っていたものがなんだったのか、
ちょっとだけ、分かったような気がして、切なくなった。
絶望と退廃が渦巻く一方で、
ものすごい希望とエネルギーを感じずには居られない時代だったのだろう。


キースやミックがまだ生きているから、キースがとっても良い人に描かれていたりするけれど、
だけど、何も分からないわたしにも、ブライアンがどれほど魅力的な人だったかは分かる。
たんに、ドラッグとアルコールで墓穴ほっちゃっただけのやんちゃくれじゃないのよ。


映画を観た後、モノシリくもちゃんは、3人のブライアンの話をしてくれた。
ブライアン・ジョーンズと、ブライアン・ウィルソンと、ブライアン・エプスタイン。
「くもちゃんはナイーヴな人が好きだねぇ。」とわたしが言うと、
くもちゃんは、やっぱり、ちょっと困ったような顔で笑った。
わたしはくもちゃんの3人のブライアンに恋しちゃうところが、
とても、愛おしくて、だけど、ちょっと、悲しいのだと思う。


くもちゃんとトーキョーで映画を観るのはこれが最後なので、
最後にいっしょに観た映画として、
この、『ブライアン・ジョーンズ』は最高だったんじゃないかなって思っている。


どうか、元気で居て。