コロッケが揚がるまで

家庭教師先のお母さんにお使いを頼まれたので、
生徒さん(さりなちゃん[仮名])と一緒に、
コロッケのおいしい肉屋まで行くことになった。


その肉屋さんは、注文してから揚げてくれるお店で、
たくさん頼みすぎたので、外の公園で待っていることにした。
駄菓子屋さんでアイスを買って、
さりなちゃんとアイスを食べながら、とりとめのない話をしていた。
ずいぶんと風が気持ちよくて、
わたしはアイスを食べるのも忘れてぼんやりしていた。
そしたら、いつの間にかジーンズがガリガリくん(白ブドウ)でべたべたになっていて、
さりなちゃんに「しょうがないなぁ…」とたしなめられた。
14歳にたしなめられる2x歳の初夏。


アイスを食べ終わってもなかなかコロッケは揚がらなかった。
ちょっと、遅いかなと思っていたら
肉屋のおばちゃんが汗をかきかきやってきて、
「まだ、揚がってないからこれ食べてて」と小さいおいもフライを2つくれた。
わたしはさりなちゃんに言うことがなく、
肉屋さんの名前が「肉のはやし」だから、「酒池肉林」って言葉を思い出した…
中国の紂王っていう王様がね…とかなんとか言って、
もらったおいもフライを食べていた。
さりなちゃんは訳がわからんという顔をした。
わたしも訳がわからんだろうなぁ…と思った。


さりなちゃんは、ふと、「大人になるって、つらそうだね?」と言った。
だからわたしは「中学生より、大人になったほうがぜんぜん楽しいよ。
だから、大人になって長生きしたほうが得だよ」と言った。
さりなちゃんはちょっとほっとしたように、
「そうなんだ。すごくつらいんだと思ってた」と笑った。
わたしもそうだと思ってた。


「ね?さかなってコロッケにがてなんでしょ」とさりなちゃんは急に笑った。
何で分かるのって聞いたら、さりなちゃんは「見てると分かる」と言った。
おばちゃんがお店の方から、コロッケが揚がったよと大声で呼んでる。
ああ。何で分かっちゃうんだろう?


その後、彼女の自宅に戻り「好き嫌いは良くない」と言われ、
なぜか、わたしがコロッケを食べることになった。
そのコロッケはすごくおいしかったけど、
やっぱり、油で揚げた匂いは小さい頃食べたすごくまずいコロッケを思い出すから、
ちょっと吐き気がするんだよ。


一体、何をしに家庭教師に来ているのだか。
勉強から遠ざかっていることは確実。